緩和ケアとは

概念

緩和ケアとは

『あなたらしく生きることを支え、寄り添う』ケア

方法

あなたらしさを奪う「苦痛」の予防・緩和

対象

病気に伴う苦痛を抱える患者および関係者(家族、パートナー、友人など)

がん終末期に限ったものでも、
患者だけのものでもない。

 

緩和ケアは抽象的で、わかりにくい。
世界保健機関(WHO)、日本緩和医療学会、様々の所で定義づけられているが、統一されておらず、定義を読むだけではその本質をつかむことは難しい。緩和ケアの本質に近づくために、歴史を振り返ってみる。

緩和ケアの原点「ホスピス」

ホスピスってなにぃー( ゚д゚)ポカーン

ホスピスという言葉は、時代によりその様相を少しずつ変化させていった。
3つのホスピスについて紹介する。

伝統ホスピス ~旅人を癒す憩いの場~

中世ヨーロッパ(西暦400~1500年頃)、聖地エルサレムへ巡礼するキリスト教者に対して、修道院1で提供された憩いの場。旅に疲れたり、病気になった巡礼者たちには、食事と宿が与えられ、病気の者は手当てをしてもらい、治らない時は、死ぬまで優しく世話を受けた。

この行いはキリスト教の教え
「空腹の者には食べ物を与え、のどが渇いている者には飲み物を与え、泊まる所がない者には宿を貸し、着るものがない者には服を着せ、病気の時には見舞い、捕らえられ自由がない者の所には足を運ぶ」
つまり、「困っていたり・苦しんでいる者には与える」に基づく。

近代ホスピス ~死にゆく人々へ慰めと安らぎを与える場~

西暦1800年頃、アイルランドは貧困・飢え・病・差別があふれており、貧困者は救いを求めながら路上で死を迎えていた。
そんな状況に心を痛めた、修道女メアリー・エイケンヘッド(1787-1858年)は、「国籍・思想・宗教の違いを超え、すべての人に平等に最期の時を人間らしく、温かなベッドと優しいケアを」と願い、修道院の外に出て、居場所を失った貧しい病気の人たちの所へ出向き、安息の場を提供し続けた。
エイケンヘッドは死にゆく患者の身の回りの世話に献身的にあたりながら、死を受け入れられるよう寄り添った。
こうして近代ホスピスは死にゆく人々の魂を救う場所という存在となった。

現代ホスピス ~がん終末期患者の苦痛を緩和する場~

西暦1900年頃、医学において「死」とは体の生命活動の停止と意味づけられ、輪廻転生2といった科学的に証明が難しい宗教的な「死」に対する考えからは遠ざけられた。「死なない」為に発展してきた医学にとって「死」は敗北である。この考え方は、死ぬ間際まで行われる過剰な医療を招き、人の終末期が非人間的で尊厳が損なわれるものになっていった。
また、当時の医療現場では症状緩和への関心が薄く、痛みは仕方がないという風潮があった。

シシリー・ソンダース(1918~2005年)は、終末期がん患者であった恋人の「死に対する苦悩」「がんの激しい痛み」を目の当たりにし、終末期がん患者の心と体の辛さを緩和するトータルケアの必要性を感じた。
この経験がきっかけでソンダースは38歳で医師となり、ロンドンの近代ホスピス「セント・ジョセフ・ホスピス」の初の終末期ケア専門医として従事する。ここで、医療用麻薬の投与方法を工夫し、患者を昏睡状態にさせずに痛みを効果的に緩和することに成功した。
「セント・ジョセフ・ホスピス」で近代ホスピスの精神を学んだソンダースは、「がん終末期患者が激しい痛みに苦しむことなく、最期の時まで人間らしく穏やかに過ごせる家のような場所を作りたい」と願い、1967年ロンドン郊外にセント・クリストファー・ホスピスを創設した。
ソンダースは宗教を基盤とする魂の救済を行っていた近代ホスピスと医学を融合することで、がん終末期患者の心と体の辛さを緩和するトータルケアを確立した。

以上がホスピスの歴史である。

ホスピスは「弱き者には与えよ」というキリスト教の教えから始まり、
修道女メアリー・エイケンヘッドにより、粗末に扱われた終末期患者に心の安らぎを与える場と変化し、
医師シシリー・ソンダースにより、近代ホスピスと医学が融合され、がん終末期患者の心と体の苦痛を緩和する場所となった。

緩和ケア

緩和ケアという言葉は、従来のホスピスと現代ホスピスの混同を避けるために生まれた。つまり、当初は「緩和ケア=現代ホスピス」であった。その後、緩和ケアの対象が「がん終末期患者」から「病気に伴う苦痛を抱える患者および関係者(家族、パートナー、友人など)」へと広がり、今では現代ホスピスとは違った位置づけとなっている。

このような背景から、日本では現在、緩和ケア病棟が終末期ケア病棟としての役割を果たし(現代ホスピス)、緩和ケアチームは病気になった時からを対象にして関わる(現在の緩和ケア)といったように色々の意味合いで使用されている。

歴史を知ったあと、冒頭に示した「緩和ケアとは3」を読み返すと、その重み・深さが違って見えてくるのではないか。一言で表現することが難しい緩和ケアの本質を少しでも実感してもらえれば幸いである。

時代の流れの中でその意味合いを変化させてきた「緩和ケア」。
緩和ケアとは
・知らない
・終末期ケアである
・麻薬、向精神薬を使いこなす専門家である
多くの人にとって「緩和ケア」とはこのような認識ではないか。

しかし、緩和ケアには決して忘れてはいけないもう一つの大切な側面がある。
穏やかに過ごせる居場所」というずっと変わらず受け継がれてきた精神だ。

病は人を孤立させる。「自分は普通とは違う…」と。
そんな人にとって「ここに居ていいんだ」と思える居場所を提供することを緩和ケアは目指している。

緩和ケアとは「医学」という科学と「魂の救い」という非科学が融合したとてもユニークな分野だ。

最後にシシリー・ソンダースが大切にしたケアの心構えを紹介する。

あなたはあなたなのです。だから、あなたは大切な人です。
最期の瞬間まで、あなたは大切な人なのです。
私達はできることの全てをいたします。
あなたを心安らかな死へと送り出すだけでなく、
あなたの死の瞬間まであなたが生きていくことを支援します。

あなたにとって、あなたの大切な人にとって緩和ケアが適切に活用されますように。。。

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